東京地方裁判所 平成7年(ワ)11586号 判決 1997年7月25日
東京都千代田区丸の内一丁目一番二号
原告
日本鋼管株式会社
右代表者代表取締役
三好俊吉
右訴訟代理人弁護士
近藤惠嗣
同
嶋末和秀
同
田中克幸
同
城山康文
同
木村耕太郎
右輔佐人弁理士
細江利昭
東京都千代田区永田町二丁目一三番八号
被告(脱退)
日本シグマ株式会社
右代表者代表取締役
関二郎
横浜市鶴見区矢向三丁目二九番二号
被告(脱退)
日本シグマ株式会社訴訟引受人
風間寛
静岡県駿東郡小山町用沢一三七五番地の七
被告
風間寛訴訟引受人
関モト子
主文
一 被告は、特許第一三三四七九一号の特許権に基づいて、原告が別紙物件目録(一)記載のごみ焼却灰の電気抵抗式溶融炉を製造、販売するについて差止請求権を有しないことを確認する。
二 被告は、特許第一三三四七九一号の特許権に基づいて、原告が別紙物件目録(二)記載の焼却灰溶融炉を製造し、これを東京都八王子市に販売し、同市戸吹町一九一六番地外に設置するについて差止請求権を有しないことを確認する。
三 訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
一 原告は、主文と同旨の判決を求め、請求の原因として次のとおり述べた。
1 被告は、次の特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
登録番号 第一三三四七九一号
発明の名称 都市ゴミ焼却灰・下水道スラツジ等の溶融処理法と溶融炉
出願年月日 昭和五三年一一月一七日
出願公告年月日 昭和六〇年一二月一二日
出願公告番号 特公昭六〇一五六九六三号
登録年月日 昭和六一年八月二八日
特許請求の範囲 別紙特許公報該当欄記載のとおり(以下、特許請求の範囲第一項の発明を「本件第一発明」といい、特許請求の範囲第七項の発明を「本件第二発明」という。)
2 原告は、業として、別紙物件目録(一)記載のごみ焼却灰の電気抵抗式溶融炉を製造、販売しており、別紙物件目録(二)記載の焼却灰溶融炉(以下別紙物件目録(一)記載のごみ焼却灰の電気抵抗式溶融炉と合わせて「原告製品」という。)を製造し、これを東京都八王子市に販売し、同市戸吹町一九一六番地外に設置しようとしている。
3 原告製品による本件特許権の(直接)侵害の不成立
(一) 本件第二発明の構成要件は、次のとおり分説できる。
A 炉体を密閉する炉天井を有し、
B 昇降自在の電極を有し、
C 前記の炉天井に都市ゴミ焼却灰・下水道スラツジ等を装入するシユート及び
D 未燃物の燃焼用空気を供給する空気孔を有し、
E 炉体の下部に溶融物の取り出し口を有し、
F 炉内には溶融物の液面上へ装入された都市ゴミ焼却灰・下水道スラツジ等に含まれる未燃物の燃焼性ガスが燃焼するに足る空間を有する構成の
G 溶融炉
(二) 原告製品と本件第二発明との対比
(1) 原告製品は、構成要件D及び構成要件Fを備えていないから、本件第二発明の技術的範囲に属さない。
(2) 構成要件Dについて
構成要件Dにいう「未燃物の燃焼用空気を供給する空気孔」とは、この構成が独立の必須要件とされている以上、「未燃物の燃焼用空気を供給する」ことを目的とした「空気孔」を意味するものであり、「炉天井」には、構成要件Bにより電極の装入孔の存在が当然に予定され、さらに構成要件Cにより焼却灰等の装入孔の存在が当然に予定されているが、構成要件Dはそれらとは別個独立の「未燃物の燃焼用空気を供給する空気孔」として存在しなくてはならない。
しかるに、原告製品の炉蓋2は、電極3の装入孔、焼却灰の装入孔を備えているが、これらは構成要件BまたはCにより予定された各装入孔であつて未燃物の燃焼用空気を供給することを目的とするものではなく、いずれも構成要件Dにいう「未燃物の燃焼用空気を供給する空気孔」にあたらない。また、炉蓋2は還元性の排ガスの取り出し口を備えているが、これは未燃物の燃焼用空気を供給するものではない。
したがって、原告製品は、「未燃物の燃焼用空気を供給する空気孔」を有していない。
(3) 構成要件Fについて
構成要件Fにいう「未燃物の燃焼性ガスが燃焼するに足る」とは、単純に「空間」の大きさを画しているものではない。「灰やスラツジ等6は、溶融物5から吸収した熱によつて800℃程度の温度を得、それ自身が含む未燃物の熱分解によつて燃焼性ガスを発生し、・・・灰やスラツジ等6は、一般に3~15%程度の未燃物や有機物を含むものであり、溶融の前段階においてこれらを燃焼することは極めて有意義である。このために、・・・燃焼性ガスの燃焼に必要な大きさの空間9を確保する。」(特許公報五欄四行ないし一三行)との記載から見て、燃焼性ガスを燃焼させることを目的としていることは明白である。
一方、原告製品は、炉内上部に空間を有しているが、この空間は、焼却灰を装入するために設けられた空間であつて、燃焼性ガスを燃焼させることを目的とした空間ではない。原告製品においては、前述のように、炉内への空気の侵入の防止策が講じられており、炉内では燃焼が起きないように設計されているのであり、炉内で生じた還元性の排ガスは、還元性排ガス取出し口から還元性の排ガス取出し管5を経て炉外の燃焼室20に導かれ、ここで燃焼される。
よつて、原告製品は、「炉内には溶融物の液面上へ装入された都市ゴミ焼却灰・下水道スラツジ等に含まれる未燃物の燃焼性ガスが燃焼するに足る空間を有する構成」を備えていない。
(三) したがつて、原告製品は、本件特許権を(直接)侵害しない。
4 原告製品による本件特許権の間接侵害の不成立
(一) 本件第一発明の構成要件は、次のとおり分説できる。
H 先端を溶融物中に埋没させた電極に通電しジユール熱によつて溶融物を加熱する溶融炉における溶融物の液面上へ都市ゴミ焼却灰・下水道スラツジ等を装入し、
I これらを順次溶融物中に溶け込ませ溶融すると共に、
J 溶融炉内に装入した都市ゴミ焼却灰・下水道スラツジ等の中に含まれる未燃物は溶融物の液面上において空気を供給し燃焼させることを特徴とする、
K 都市ゴミ焼却灰・下水道スラツジ等の溶融処理法
(二) 原告製品の使用方法
原告製品は、以下のとおりの工程からなる灰溶融処理法(以下「原告方法」という。)の実施のために用いられる。
イ 始めに炉体1内に焼却灰を装入し、その上に粒状のカーボン導電材を敷く。そして、カーボン導電材に電極3を接触させ通電を行うと、カーボン導電材が接触通電発熱し、その熱により焼却灰が溶融して溶融焼却灰のプールができる。この熱により更に焼却灰の溶融が行われる。この状態で焼却灰を順次追加装入すると、焼却灰の溶融が進み、比重の差により、炉体1の下部には溶融メタル層8が、その上には溶融スラグ層7が、更にその上には焼却灰層6が形成される。
ロ 定常状態においては、電極3が溶融スラグ層7に埋没した状態で通電を行い、電気抵抗熱によつて溶融スラグ層7を加熱している。そして、溶融スラグ7層の液面上へ焼却灰を順次装入する。
ハ 装入された焼却灰は、順次溶融スラグ層7の表面で溶融して溶融スラグとなる。
ニ 溶融スラグ層7で発生した電気抵抗熱(ジュール熱)により焼却灰層6が加熱されて焼却灰層6中の未燃物が熱分解して発生する還元性の排ガスは、炉蓋2の還元性の排ガス取出し口及び還元性の排ガス取出し管5を通して炉体1の外に排出し、炉外の燃焼室20で燃焼させる。
ホ この間、炉内に空気は供給しない。
(三) 原告方法と本件第一発明との対比
(1) 原告方法は、本件第一発明の構成要件Jに相当する工程を備えておらず、構成要件Jを充足しない。そのかわりに、原告方法は、工程ニ及びホを備えている。
このようにするのは、前述のように、原告製品の炉体1の内張り材質はカーボン系耐火材であり、電極3は人造黒鉛製であるため、炉内は還元性雰囲気に保持する必要があるからである。すなわち、炉体1に空気を供給すると、炉内が酸化性雰囲気となり、その結果電極の消耗及び炉体1の内張り材の著しい損傷を生じてしまう。したがって、原告方法では、熱分解により発生した還元性の排ガスを炉体内で燃焼させることはせずに、炉外の燃焼室20に導き、ここで燃焼させているのである。
なお、前述のように、原告製品は、炉内で還元性の排ガスが燃焼するのを防ぐために、炉内圧力を大気圧よりも若干高くして空気が炉内に侵入しないようにしている。また、電極3と炉蓋2との間隙は、この間隙から還元性の排ガスが外に漏れないようにシールしてあり、炉外から空気が侵入することもない。さらに、装入シュート4に溜められた燃焼灰により装入シュート4から空気が侵入しないようにすると同時に、燃焼灰に含まれる空気を装入シュート4及ぴホッパ内で炉内の還元性の排ガスにより置換して、燃焼灰の装入時に空気が侵入しないようにしている。そして、炉内圧力を大気圧よりも若干高くしているため、排気管5からも空気が炉内に侵入しない。
(2) 以上のように、原告方法では、溶融物液面上に空気が供給されることはなく、このため、炉内に装入した焼却灰の中に含まれる未燃物は溶融物の液面上において燃焼することはない。したがって、原告方法は、本件第一発明の技術的範囲に属さない。
(四) また、本件特許権の特許請求の範囲第2項ないし第6項は、すべて本件第一発明の実施態様項であるから、本件第一発明の技術的範囲に属さない以上、原告方法は特許請求の範囲第2項ないし第6項に記載されたいずれの発明の技術的範囲にも属さない。
以上のとおりであるから、原告製品は本件特許権の特許請求の範囲第1項ないし第6項のいずれの「方法」にも用いるものではない。
(五) よって、原告製品は、本件特許権を間接侵害することもない。
5 被告は、原告製品の製造、販売又は使用が本件特許権を侵害する旨主張している。
6 よって、原告は、被告に対し、被告が特許法一〇〇条一項又は同法一〇一条二号、一〇〇条一項に基づき、原告の前記2記載の行為の差止を求める権利を有しないことの確認を求める。
二 被告は、請求棄却の判決を求め、請求原因1、5の事実は認め、その余の事実は認否できないと述べ、原告製品が本件第二発明の構成要件をすべて充足する旨の具体的な主張及び原告製品の使用が本件第一発明の構成要件をすべて充足する旨の具体的な主張を行わない。
三 当裁判所の判断
1 請求原因1及び5の事実は当事者間に争いがない。
2 いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三号証、第四号証、第一八号証及び弁論の全趣旨によれば、請求原因2の事実が認められる。
3 その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第八号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一号証及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 本件特許権は、もと小林浩が特許権者であったところ、株式会社テクノプラザを経て、平成六年四月二五日、脱退被告日本シグマ株式会社に譲渡され、本件訴訟提起後の平成七年一〇月二三日、脱退被告風間寛に譲渡され、同人が本件訴訟を引き受け、さらに、平成八年八月二六日、被告に譲渡され、同人が本件訴訟を引き受けた。なお、被告は、脱退被告日本シグマ株式会社の代表取締役である関二郎の妻である。
(二) 脱退被告両名及び被告は、一年一〇か月に及ぶ本件訴訟の係属中、いずれも原告の行為が本件特許権を侵害する旨主張しながら、原告製品が本件第二発明の構成要件をすべて充足すること及び原告製品の使用が本件第一発明の構成要件をすべて充足することについて具体的な主張をしなかった。
(三) 被告は、本件口頭弁論終結の日の前日である平成九年五月二二日に至り、小林浩に対し、本件特許権の一部移転登録申請をした。
4 右認定の事実によれば、被告は、差止請求権の発生原因事実、すなわち、原告製品の製造、販売及び使用が本件第一発明及び本件第二発明の構成要件をすべて充足し、本件特許権を侵害することについて何ら主張立証しないものといわざるを得ず、したがって、被告が本件特許権に基づいて原告の右各行為の差止めを求める権利を有するとは認められない。
四 以上のとおり、原告の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日 平成九年五月二三日)
(裁判長裁判官 高部眞規子 裁判官 榎戸道也 裁判官 中平健)
物件目録(一)
左記の構造からなるごみ焼却灰の電気抵抗式溶融炉
記
一 原告のごみ焼却灰の電気抵抗式溶融炉(以下「原告製品(一)」という)は、添付第一図に示された全体的構成を有する。
二 原告製品(一)は、次の要素からなる。(数字及びローマ字は第一図に記載された数字及びローマ字を示す。)
1 炉体1
炉体1は、カーボン系耐火材の内張りを有する。炉体1内には、焼却灰を加熱溶融することにより、上から順に焼却灰層6、溶融スラグ層7、溶融メタル層8が形成されている。炉体1には溶融スラグ層7に対応して溶融スラグ取出し口7aが、溶融メタル層8に対応して溶融メタル取出し口8aが形成されている。
2 炉蓋2
炉蓋2は灰溶融炉炉体1の上部に施蓋されて炉体1内を密封している。炉蓋2には電極3の装入孔、焼却灰の装入孔及び還元性の排ガスの取出し口が形成されている。
3 電極3
電極3は人造黒鉛からなり、炉蓋2の装入孔を貫通して昇降自在に装着されている。電極3の先端は溶融スラグ層7に達している。
4 装入シュート4
装入シュート4は、炉蓋2に形成された焼却灰の装入孔に取り付けられている。装入シュート4には、焼却灰の切り出し装置4aが設けられている。
5 還元性の排ガス取出し管5
還元性の排ガス取出し管5は、炉蓋2に形成された還元性排ガスの取出し口に取り付けられ、他方では燃焼室20に接続されている。
物件目録(二)
原告と八王子市との間の平成六年九月二六日付「八財契(工)第五九号 工事請負契約書」添付の「八王子市戸吹清掃工場建設工事発注仕様書」一二四頁及び原告が右契約書に関し作成し平成六年一一月一七日に八王子市に対し提出した「焼却灰溶融設備計装フローシート」と題する図面(添付第二図)に記載され、左記の構造からなる焼却灰溶融炉
記
一 原告の焼却灰溶融炉(以下「原告製品(二)」という)は、添付第二図に示された焼却灰溶融設備のうち、枠で囲まれた部分である。
二 原告製品(二)は、次の要素からなる。(数字及びローマ字は第三図に記載された数字及びローマ字を示す。)
1 炉体1
炉体1は、カーボン系耐火材の内張りを有する。炉体1内には、焼却灰を加熱溶融することにより、上から順に焼却灰層6、溶融スラグ層7、溶融メタル層8が形成されている。炉体1には溶融スラグ層7に対応して溶融スラグ取出し口7aが、溶融メタル層8に対応して溶融メタル取出し口8aが形成されている。
2 炉蓋2
炉蓋2は灰溶融炉炉体1の上部に施蓋されて炉体1内を密封している。炉蓋2には電極3の装入孔、焼却灰の装入孔及び還元性の排ガスの取出し口が形成されている。
3 電極3
電極3は人造黒鉛からなり、炉蓋2の装入孔を貫通して昇降自在に装着されている。電極3の先端は溶融スラグ層7に達している。
4 装入シュート4
装入シュート4は、炉蓋2に形成された焼却灰の装入孔に取り付けられている。装入シュート4には、焼却灰の切り出し装置4aが設けられている。
5 還元性の排ガス取出し管5
還元性の排ガス取出し管5は、炉蓋2に形成された還元性の排ガスの取出し口に取り付けられ、他方では燃焼室20に接続されている。
第一図
<省略>
第二図
<省略>
第三図
<省略>
<19>日本国特許庁(JP) <11>特許出願公告
<12>特許公報(B2) 昭60-56963
<51>Int. Cl.4F 23 G 5/00 5/027 5/14 F 23 J 1/00 識別記号 115 庁内整理番号 Z-6512-3K Z-6512-3K B-6512-3K B-6929-3K <24><44>公告 昭和60年(1985)12月12日
発明の数 2
<54>発明の名称 都市ゴミ焼却灰・下水道スラツジ等の溶融処理法と溶融炉
<21>特願 昭53-141814 <65>公開 昭55-67396
<22>出願 昭53(1978)11月17日 <43>昭55(1980)5月21日
<72>発明者 小林浩 小金井市中町1丁目7番31号
<72>発明者 羽生義之 柏市十余二72-23
<71>出願人 小林浩 小金井市中町1丁目7番31号
<74>代理人 弁理士 高雄次郎
審査官 足立昭
公害防止関連技術
<36>参考文献 特開 昭50-101276(JP、A)
<37>特許請求の範囲
1 先端を溶融物中に埋没させた電極に通電しジユール熱によつて溶融物を加熱する溶融炉における溶融物の液面上へ都市ゴミ焼却灰・下水道スラツジ等を装入し、これらを願次溶融物中に溶け込ませ溶融すると共に、溶融炉内に装入した都市ゴミ焼却灰・下水道スラツジ等の中に含まれる未燃物は溶融物の液面上において空気を供給し燃焼させることを特徴とする、都市ゴミ焼却灰・下水道スラツジ等の溶融処理法。
2 電極は溶融物の液面下10~300mmの深さに埋没させることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の溶融処理法。
3 溶融物の液温は、溶融物の溶解温度より100~300℃高い温度で操業することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の溶融処理法。
4 珪酸質、石灰質等の添加剤を加えることによつて、溶融物の組成を、SiO2(%)/CaO+K2O+NaO+MgO(%)>1に維持することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の溶融処理法。
5 溶融物は、その液面が所定の高さに上昇する度に取り出すことを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の溶融処理法。
6 溶融物の液面の全域を、装入した都市ゴミ焼却灰・下水道スラツジ等によつて被覆することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の溶融処理法。
7 炉体を密閉する炉天井を有し、昇降自在の電極を有し、前記の炉天井に都市ゴミ焼却灰・下水道スラツジ等を装入するシユート及び未燃物の燃焼用空気を供給する空気孔を有し、炉体の下部に溶融物の取り出し口を有し、炉内には溶融物の液面上へ装入された都市ゴミ焼却灰・下水道スラツジ等に含まれる未燃物の燃焼性ガスが燃焼するに足る空間を有する構成の溶融炉。
発明の詳細な説明
この発明は、都市ゴミ焼却灰や焼却炉ダスト(以下灰という)及び下水道スラツジ、メツキスラツジ(以下スラツジをいう)の類を無害化処理する方法に関するものである。さらにいえば、灰やスラツジ等を溶融してこれらに含まれる重金属類を全く無害な人工鉱物と金属にする溶融処理法と、この方法の実施に使用する溶融炉に係るものである。
この発明の目的は、灰やスラツジ等の溶融物の電気抵抗により発生するジユール熱によつて灰やスラツジ等を溶融し、重金属類を全く無害な人工鉱物と金属に処理する方法と、その方法の実施に最適な電気抵抗式の溶融炉を提供することにある。
従来、上記の灰やスラツジ等は、例えば焼却炉より排出したあと、水等によつて防 処理を施し、そのまま埋立地へ廃棄されてきた。しかし、灰やスラツジ等は、下記の表-1の通りに重金属類を多く含み、溶出金属も多大なものである(ただし環境庁基準ははるかにクリヤーしている)から、当然、埋立地の水質汚染、土質汚染の問題が起こると予想される。
(表-1)
<省略>
最近、上記の灰やスラツジ等による埋立地の水質汚染、土質汚染を防ぐ対策として、灰やスラツジ等をセメントやアスフアルトのような凝固剤によつて固形化し重金属類を封じ込めてから埋立地へ廃棄する方法が採用される機運となつてきた。しかし、この方法による場合にも、数年後には固形物の風化、分解によつて重金属類の封じ込みが破られる危険が予想される。
異なる対策として、電気炉を用い、例えばメツキスラツジを溶融処理して金属を回収し、その他の物をスラグとして無害化する方法も考えられている。しかし、この方法は、製鋼用アーク炉を使用しアークの熱を利用してメツキスラツジを溶融するから、いたずらに3000℃もの高温を発生するため経済的でなく、また、炉ライニングの耐用寿命が著るしく短かくなる。さらに、電流が不安定のため、炉操業が極めて困難となる欠点がある。
従つて、この発明の目的は、従前の方法における上述したような欠点、問題点をもたらさない処理法、すなわち、灰やスラツジ等を将来において重金属類が溶出する危険の全くない無害物に処理することができ、処理時の炉温も灰やスラツジ等の溶融に必要な範囲の適温に保持して経済的に、かつ、炉ライニングを つけないように処理することができ、炉操業も容易な溶融処理法と、その溶融処理法の実施に適する溶融炉を提供することにある。
この発明の要旨は、次の通りである。
第1図と第2図に溶融炉の一例を示す通り、先端を溶融物5中に埋没させた電極1…に通電し、溶融物5を抵抗体とするジユール熱によつて溶融物5を加熱する。このように電極1…の先端を溶融物5中に埋没して通電し操業するため、通電電流は安定化し無人操業も可能となるのである。電極1…の先端を溶融物5中に埋没する寸法Dは、電極1の太さ、電圧値及び電流値、溶融物5の組成によつて異なるが、溶融物の液面下10mm以下300mm以下に保持するのが好ましい。深さDが10mmに満たないと、完全な電気抵抗を得られず、アークを発生する悪い状況となり、又、深さが300mm以上になると、電極支持点から先端までの長さが大となり、黒鉛電極 的強度が不足するからである。溶融物5の液面の上下変動に対しては、上記の深さDを保持するべく電極1…を昇降させる。昇降機構の図示は省略した。
溶融物5の液温は、当該溶融物5の融解温度(灰やスラツジ等のそれは大体1300℃~1400℃)よりも100℃~300℃程度高い温度にするのが、処理能力、熱的経済性、炉ライニングの寿命に最も効果的である。
処理対象である灰やスラツジ等6は、炉天井10に設けたシユート3を通じて溶融炉内の溶融物5の液面上へ装入される。装入した灰やスラツジ等6は、溶融物5の液面の全域を被覆するようにするのが良い。かくすると、液面から逃げる熱はすべて灰やスラツジ等6に吸収され、又は断熱効果を奏して熱効率が非常に良いからである。さらにいえば、灰やスラツジ等6は、溶融物5から吸収した熱によつて800℃程度の温度を得、それ自身が含む未燃物の熱分解によつて燃焼性ガスを発生し、炉内雰囲気を還元性に保つことができる。灰やスラツジ等6は、一般に3~15%程度の未燃物や有機物を含むものであり、溶融の前段階においてこれらを燃焼することは極めて有意義である。このために、炉内に装入した灰やスラツジ等6と炉天井10との間に、燃焼性ガスの燃焼い必要な大きさの空間9を確保する。又、燃焼用空気を供給する空気孔8、8を炉天井10に設ける。さらに、排ガス出口7を設けて燃焼時の悪臭も排除する。
炉内へ装入した灰やスラツジ等6は、溶融物5の液面と接する部位から順次溶融物5中に溶け込ませ溶融する。従つて、溶融物5の液面を被覆する灰やスラツジ等6の平均層厚L2がほぼ一定であるように灰やスラツジ等6を逐次装入してゆけば、この溶融はどんどんと進行し、極めて容易な操業を行なうことができるのである。こうして、炉内における溶融物5の量が増してその液面が所定の高さに上昇する度に、炉体2の下部の取り出し口4を開いて溶融物5を一定量づつ取り出す。取り出した溶融物5は、ただちに型へ注入して成形し構築用材料等とする他、砕石として種々な用途に有効利用することが可能である。
溶融物5に望ましい組成は、有害な重金属類を金属酸化物として人工鉱物中に共晶化させるために、鉱物組成中SiO2が余剰な状態にしておくのが最も好ましい。すなわち、金属酸化物はSiO2と結合し易く、溶融後に直ちに結合して珪酸塩を形成し、冷却後に全く不溶の鉱物となつてしまうからである。故に、珪酸質、石灰質等の添加剤を灰やスラツジ等6と一緒に加えて溶融物5の組成を、SiO2(%)/CaO+K2O+NaO+MgO(%)>1に 持する操業をする。これにより、金属化されない重金属類は、すべて人工鉱物中に封じ込められて再び単体とはならなくなる。
なお、この発明の溶融処理法を実施する当初に溶融物5を生成する方法としては、溶融炉の炉底にコークス、木炭のような電気良導体を置き、これに電極1…を接続しカーボン抵抗によつて赤熱化させ、その上に灰やスラツジ等6を少しづつ投入し続けると、溶融物5が容易に得られる。
この発明の溶融処理法の電力消費を節減するために、焼却炉より排出された600℃~700℃の熱い灰やスラツジ等6をそのまま装入することが有効的である。このように焼却炉と溶融炉を直結すると、設備質の低減にも寄与する。
さらに、この発明の溶融処理法を余熱利用発電所のある焼却場において実施するならば、その発電力を有効に利用することが可能であり、全発電量の30%の電力消費で全焼却灰の溶融が可能となる。
さて、上記の溶融処理法を実施する溶融炉の構成としては、第1図と第2図に示、す通り、炉体2は密閉する炉天井10を有し、電極1…はそれぞれ昇降自在で溶融物5の液面の上下変動に追従して深度Dを10~300mmの範囲に保つことが可能とされる。又炉天井10に灰やスラツジ等6を装入ずるシユート3及び燃焼用空気を供給する空気孔8、8を有し、炉体2の下部に溶融物5の取り出し口4を有し、未燃物の燃焼性ガスが燃焼するに足る大きさの空間9を確保できる構成になつている。炉体2及び炉天井10は、耐火物によつてライニングされている。空気孔8、8には、供給空気量の調節弁11、11が付設されている。シユート3は炉天井10を貫通して炉内下方に延び、空間9中に灰やスラツジ等6を散乱させることなくそれを直接溶融物5の液面上へ装入できるようになつている。装入した灰やスラツジ等6が溶融物5の液面の全域を被覆するように、シユート3…は、第1図の通り、溶融炉の平面全域に6本(本数はこの限りでない)を等配して設置されている。同様に、空気孔8…も、燃焼性ガスの完全燃焼を期すべく、排ガス出口7の周囲に3本(本数はこの限りでない)を集中させると共に、溶融炉の平面の全域に6本(本数はこの限りでない)を等配して設置している。3相交液用の3本の電極1…は、いずれも黒鉛電極棒とされている。
以下に、この発明の溶融処理法の実施例を説明する。
(実施例その1)
300KW容量の3相エルー式固定電気炉を用い、これに下記組成の都市ゴミ焼却灰を装入した。
(表-2)
<省略>
上記組成の都市ゴミ焼却灰の溶融条件は、電圧60ボルト、220KWの電力を使用し、溶融物5の深さL1を450mm、装入した都市ゴミ焼却灰の平均層厚L2を180mm、電極1…の先端は溶融物5の液面下深さDを65mmに埋没し操業した。供給電流は極めて安定に通電することができた。2時間与に溶融物5を取り出し、8時間の操業で2300kgの都市ゴミ焼却灰を溶融処理することができた。取り出した溶融物5の総量は1780kgであり、鉄板上で冷却した。溶融物の組成及び溶出テストの結果は、下記の表-3、表-4の通りであつた。
(表-3)
<省略>
(表-4)
<省略>
上記の溶出テストの結果は、溶融物は無害物といえるものである。
(実施例その2)
300KW容量の3相エルー式電気炉を用い、これに下記組成の下水道スラツジを装入した。
(表-5)
<省略>
(ただし、水分を除くものはドライベースの値である。)
上記組成の下水道スラツジの溶融条件は、電圧60ボルト、205KWの電力を使用し、溶融物5の深さL1を450mm、装入した下水道スラツジの平均層厚L2を100mm、電極1…の先端は溶融物5の液面下深さDを60mmに埋没し操業した。有機物が相当あつて、炉内で燃焼が起つていたが、供給電流は極めて安定に通電することができた。2時間毎に溶融物を取り出し、8時間の操業で2000kgを溶融した。取り出した溶融物の総量は1500kgであり、鉄板上で冷却した。溶融物の組成及び溶出テストの結果は、下記の表-6、表-7の通りであつた。
(表-6)
<省略>
(表-7)
<省略>
上記溶出テストの結果は、溶融物は無害物といえるものであつた。
以上に説明した通り、この発明の溶融処理法によつて灰やスラツジ等を処理すると、永久に無害の人工鉱物(セラミツク)が得られ、これを埋立地に廃棄しても水質汚染、土質汚染の問題を惹起することは決してない。のみならず、人工鉱物は、これを道路基礎、建設材料等に有効利用することが可能であり、省資源に寄与する。
又、この発明の溶融炉は電気抵抗式であるから、操業が容易であり、灰やスラツジ等を経済的に溶融処理することができ上記溶融処理法の実施に極めて有効的である。
図面の簡単な説明
図面はこの発明の溶融処理法の実施に使用する溶融炉の実施例を示すものであり、第1図は平面図、第2図は垂直断面図である。
5…溶融物、1…電極、6…都市ゴミ焼却灰・下水道スラツジ等、8…空気孔、4…溶融物の取り出し口、2…炉体、10…炉天井、3…シユート、9…空間。
第1図
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第2図
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特許公報
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